午前2時。タバコの煙の中にいた。

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静かな雨

雨は降っているが、嫌な雨では全くない。5時間ほど前に流し始めたCDは何度目だろうか、12曲目を流し終え、再び1曲目に戻ったようだ。閉ざした窓を通してでも流れ始めたその主旋を聞くことのできる、そんな静かな雨さ。

タバコを揉み消すとき、爪のやや伸びているのに気付いた。そして僕はそのまま爪を眺めながら、吸殻から立ち昇る最後の一筋に息を吹きかけた。

降っていることも忘れてしまうほど静かに降り続く雨は、恐らく本当に降っているのだろう。

窓の中、灯りは消していた。

恐ろしく静かな雨が、恐ろしく何も無い街に降り続いているのだろう。リピートを繰り返すCDも、いつかは疲れ果て深い眠りに就くのだろうか。

時折のささやかな風が、雨粒と呼ぶこともできないような水分を、忘れた頃に僕の頬へ届ける。そして僕は未だ眠っていないことに気付くんだ。
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テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2007/11/10(土) 23:06:09|
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終わらない

煙の後に吐く息さえも白くなったあの夜、

「ああ、僕は永久ではないのだな。」

そんなふうに思えた。月夜でなければ、そんなことには気付かなかったのかもしれないし、或いは既に知っていたとして、見過ごすことができたのかもしれない。しかし、煙はどこまでも流れ、吐く息は、消えた。

「少しだけそっとしておいてくれないか。」

よたよたと通りを歩く酔っ払いの叫び声に、呑み込まれてしまった微かな思いも、消えてしまえばいい。

ベランダから眺める景色が、普段にも増して綺麗に写ったのは、冷たい頬を湿らせた一筋を、なんだかとても暖かいものだと感じることができたから、でしょうか。

終わらないものを、欲しいと思った。

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

  1. 2006/11/15(水) 00:46:10|
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ベランダ物語

ベランダの手すりに両腕をつき、くたびれた体を任せた。左手の甲に感じた久しい感覚は無精髭。何度となく変わる風景の中で、夜空とタバコだけは変わらないから、
「君は笑ってた。本当に笑ってた。」
微かに口ずさむ曲だって7年前から変わらない。今日はこんなことがあって、明日はどんなことが起こるのか、考えようとすればするほど月は輝き星は満ちる。とてもせわしい夜空だな。漂うタバコの煙から、気付けば目を逸らしてしまうほどの点滅を繰り返しながら、流れ行く飛行機。或いは夜空も変わってしまったのかもしれない。そう考えると、僕はとても淋しい気持ちになった。
 今日はこんなことがあって、明日はどんなことが起こるのか。その疑問の大半に、僕は答えることができなかった。そんな日は、柔らかなタバコの煙が、とても上手に僕を慰めてくれたんだ。とても動いているとは感じることのできない星空を従え、煙はとても柔軟だった。
「そんなことはどうだっていいさ。ただ、まさに今、お前はタバコを吸っている。」
「そうさ。僕は今タバコを吸っている。」
まるで僕の存在を証明してくれているようで、涙さえ輝けた。
 時代が変わるにつれ何かが移ろうのではなく、場所が変わるにつれ全てが歪むのでもなく、僕が変わるから少しずつ動いていくのだろう。
 僕は今日の夜景と、夜空と、タバコの煙に別れを告げた。
 「おやすみ。」
 こうして、ひとつひとつの灯りが、湿気た街の中から消えていくのだろう。

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2006/07/14(金) 23:48:37|
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水彩画の世界

観葉植物を両手で抱え、ベランダへ持ち出し水を遣る。葉先に集まる小さな水は、見る見るうちに水滴となり、乾いたグレーへ滲み出した。遠くに見える水平線には、3隻のコンテナ船が浮いていた。空は青。雲は白。透き通るような水彩画を見ているようだな。スキトオルヨウナ、

僕はよく眩暈を起こす。視界の中心に現れた小さな白い粒が膨張を始め、2倍ほどの大きさになると同時、暴発したように真っ白な世界に覆われる。それは贈り物だろうと、そんなふうに考えるようになったのはいつのことか。純潔を知らない僕への、最も潔白な贈り物。悪い感覚ではないんだ。悪い感覚では、

「飛び立つのもいいだろう。」
「羽はどこへ?」
「羽なんてものはそんなに重要な物ではないのだよ。」
「ではどうやって?」
「こうすればいいのさ。」

思い付く侭に一通りの空想を終える頃、3隻のコンテナ船の消え去ったあとに残された水平線を少しだけ身近に感じることができ、空は相変わらずの青色をしていたが、雲は全くその青の中から消えていた。

いい1日になりそうだ。

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2006/06/28(水) 01:37:25|
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指先

とても長い時間、あなたと過ごした気がするよ。そう、とても長い時間。今の僕には何も残っていないのだから。ああ、何も残っていない。躍起になって離さなかった朽ち果てたチャコールフィルターのような欠片も、もう指先に残ってはいないのに。自由になった指先で、また真新しい何かを毟り取ろうか、いや、パチンと指を鳴らしてみようか。

僕は右手を見つめ、親指と中指を合わせた。そして軽く力を込めたその瞬間、指先から零れ落ちた朽ち果てた欠片は、どこを漂っていたのだろう。梅雨空へと舞い上がり、どこからか来てどこへか流れていくあの分厚い雨雲の一部へと上手く化せたのだろうか。そうだとすれば救われる。

「パチン」

薄暗い街灯を映しているのだろう水溜りから、勢いよく跳ね返る途切れることの無い雨音は続いていたが、真夜中の水の街で唯一乾いた存在として響いたその音は、僕の心を幾分も慰めはしなかった。

「帰ってシャワーでも浴びようか?」

何かが終わると何かが始まるらしい。そういうものらしい。では、何かが終わり何も始まらなければ。

「ああ、そうしよう。」

シャワーを浴びて、タバコを吸いながら、旨いコーヒーを飲めばいい。水溜りから乱反射した更に薄い街灯の灯りは、そう言っているようだった。

「パチン」

僕はもう一度指を鳴らした。これで雨が止むといい。これで夜が明けるといい。これで記憶が消えるといい。これで強くなれればいい。

とても長い時間、あなたと過ごした気がするよ。そう、とても長い時間。今の僕には何も残っていないのだから。ああ、何も残っていない。
  1. 2006/06/27(火) 01:16:51|
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何気無い夜

細めのコートを好んで着るが、
それを彼女が羽織ったところで、
やはりしっくりとくることはない。

「タバコを買いに行くけれど、他に要るものは?」
「一緒に行くよ。」

少しくたびれた僕のダッフルコートに腕を通し、
指先の出てこない袖を見ると、
一緒に行かずにはいられなくなる。
それでも彼女はそれを脱ごうとはせず、
ぎこちない手つきでブーツを履こうとしている。

おかげで僕はシャツの上にパーカーを被っただけだった。

「自分のコート着ればいいのに。」
「いいでしょ、たまには。」

人のコートを着たくなるときだってたまにはあるのかもしれない。
僕はまだそんな気持ちにはなったことはないが、
それはきっと僕の年齢が彼女よりひとつ下だからだろう。
来年の冬が来るころには、
そんな彼女の気持ちも理解できるのかもしれない。

階段を下りて、両手をポケットに入れたまま、
僕は小走りにコンビニの方向へと向かった。

「ちょっと待ってよ。」

自分の背丈の半分ほどもある真新しいランドセルを
背負った小学1年生。
彼女の姿は、僕にそんな小学生を連想させた。

歩いて3分のコンビニは、
笑いながら走ると1分足らずで着いてしまった。

夜のコンビニは好きになれない。
繰り返される宣伝と低俗な明るさで何を表現しているのだろうか。
僕には全く理解できなかったし、しようとも思わなかった。
薄暗い間接照明の中で、
個性的なジャズバンドが演奏をしているような
そんな場所をコンビニと呼ぶのであれば、
僕は何時間でも立ち読みをするだろうし、
お礼にウイスキーでも届けるのだが。

そしていつものように扉の前でタバコに火を点けて、
店内を目的のものを探して歩く彼女を目で追うのだった。
彼女は彼女で、30秒に1度は僕の方を振り向き、
申し分の無い笑顔をくれるのだった。

シャツの上から着込んだパーカーだけでは、
どうにもこの寒さを遣り過ごすことはできない。

僕はタバコをもう1本取り出して、それにも火を点けた。
2本のタバコの火があればどうにかなるだろう。
そして両手に挟んだタバコを交互に吸いながら、
彼女の出てくるのを待つことにした。

月も星も見えない夜空には、
とても分厚い雲が架かっているように思えた。
僕の2本のタバコのせいで、明日あたり雪になるかもしれない。

そんなことを考えていると彼女が出てきた。

「寒いのなら入ればいいのに。」
「嫌いなんだ。」
「どうして2本もタバコ持ってるの?」
「寒いからね。」
「温まった?」
「それなりに。」

僕は1つのタバコをそこに投げ捨て、
残り1つのタバコを口に咥え、
また両手をポケットに入れ、
小走りにアパートの方向へと向かった。

「ちょっと待ってよ。」


何気無い夜がしあわせだと理解できたのは、
1年後の冬の終わった頃だった。

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  1. 2006/05/23(火) 01:57:33|
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おやすみ

大袈裟なほど大きくて、いささか重い受話器をかけた。
スライドしながら吐き出されるテレフォンカード。
「ピピー、ピピー、ピピー」と続けて鳴る電子音。
それを抜き取り、目の前で穴の数を数えた。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。
またひとつ増えた。
夜の電話ボックスで、
10分ほどの会話の内容を思い出してみようとしたが上手くいかず、
手すりに凭れながら、
明かりを求め集まってきた小さな虫のうごめく様子と
透明な壁の向こう側にへばりついて動かない蛙の腹とを眺め、
ゆっくりと扉を開き、
黄色の点滅を繰り返す信号機の灯りの方へと歩き出した。
誰も乗せていない最終バスは、
その中だけはこことは経度も緯度も違う、
どこか別の世界のような雰囲気のまま僕を追い越し、
目の前にあるバス停で止まることも無く信号を右折し、
そして小さな石橋を渡り、建物の影へと消え去って行った。

「おやすみ。」
「おやすみ。」

階段の3段目に座っていた彼女は、
そう言い終えると耳から受話器を放し、
立ち上がり階段横の台の上に置かれた電話機へと受話器を戻すだろう。
そして居間へと戻り家族とテレビの続きを見るのかもしれないし、
階段を上り部屋へと戻り、机に向かい電気スタンドを灯して
宿題の続きに取り掛かるのかもしれないし、
明日の朝、授業の始まるまでに僕のノートの宿題を写そうと考え、
そのままベッドへと潜り込むのかもしれない。
とにかくいろいろな彼女の姿を思い浮かべた。

家族以外に向けて「おやすみ」と言ったのは、
おそらく彼女が最初だろう。
そのぎこちなさを今でもよく覚えている。

「それじゃ、また明日ね。おやすみ。」
「おやす、み。おやすみ?おやすみ。」
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。おやすみ。」
「変なの。おやすみ。」

そして電話の切れるのを受話器越しに聞いてから、
大袈裟なほど大きくて、いささか重い受話器をかけた。
夜の電話ボックスで手すりに凭れながら、

「おやすみ。」

一度呟いた。

その日、僕は月にも向かって言ったんだ。

「おやすみ。」

彼女の丸い顔を想い、
僕はとても嬉しくて、
夜が明けて、身支度を整え、
友人と歩いて20分で教室へと辿り着き、
彼女へ「おはよう」と言う瞬間を、
待ちきれないくらいに愛しく思えた。

テーマ:ショート・ストーリー - ジャンル:小説・文学

  1. 2006/05/22(月) 00:17:03|
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